the other space


月が蒼く見える

今日は何の日か


不条理の嵐が静かに吹き荒れる中

君はあの人の導くままにゆっくり

夜の街を泳いでいったんだったね

私はメチルアルコールを飲み干し

血走った眼をこすりつつ追ったよ

体は30センチ以上も宙に浮いて

確か両手を使って走ったんだっけ

あの人は静かに笑って見ていたね


時は止まるのか

すでに戻れない


あの人の血の色は無色透明だった

そしてちょっと潮の薫りすらした

君と同じなのだろうかもしかして

だが私と君はあまりに違いすぎて

あの人の体は街の二酸化窒素とか

そういうものに紛れて消え去った

夜の街は全てを飲み込んだままで

朝の光と共にクオークに分かれた


謎のメッセージ

君の伝えたもの


そして一つになった後再分裂する

2・4・8・16・32・64…

その沢山の君の幻に目眩を覚えた

16777216色の虹が架かり

あの人の記憶の鱗片も吹き飛んだ

合わせ鏡のように全てが増えゆき

そしてHDの容量がパンクしたら

もう私と君は使いものにならない


最期の記憶すら

革命が打ち消す


私は君と街の鈍色の壁に向かって

必死になって爪痕を残そうとした

砲弾と共に打ち出され月に行くか

時の花を摘みに心の奥底に行くか

どちらも冒険だとあの人は言った

君はその話を聞いて涙を流したが

その涙はモニタの電磁波で電解し

あの人の体と同じ運命を辿ったね


ここは仮想空間

最終章を飾ろう


結局最後は自己犠牲なんだしとか

あの人は妙な事を呟いていたよね

私と君とあの人に残された結末は

結局闇の道しかなかったのだろう

疲れ切った微笑みは古新聞と共に

滅び去った精神は段ボールと共に

悲愴な程はしゃぎ夜の街へ向かう

そこは既にモノクロの世界だった


もう一つの未来

二律背反を胸に


けたたましい音を立て逆に回った

映写機は夜の街を引き戻したけど

私と君がいかにペンキを塗ろうと

塗る側から剥げ落ちてしまったね

ぐったりと倒れかかった電信柱は

闇よりも暗い光を連想させたから

自ら召還したあの人の面影を殺す

それが私と君の最後で最初の仕事


分離する体と心

空虚な幻に踊る


世界の果てを乗り越えて出会えた

もう一人の君が持つ禁断の果実の

その感触を全身で感じ取る為にも

全ての作業をアイドル状態にする

二人の君は相容れない存在であり

異なる魂すら持っていたんだよね

どちらにしろ幻想だという笑い声

何故かそれはあの人のものだった


そこにある壁は

過去に見た幻影


新しい君が君となったその瞬間に

私と君の糸電話が大きく揺れ始め

虚空の中ブンブン呻り声を上げた

いつまでもあの人の遺志になんて

忠実である必要もない筈なのにね

薄光の中何を頼りにこの長い道を

歩いていけばいいのか分からずに

スピーカのノイズに黙祷を捧げた


ずれていった地軸

終わりの始まりに


ねじれた廊下を突き進んでいった

なにかが音を立てて壊れたんだね

君の泣き出しそうな笑顔を見ると

本当の敵はあの人だったのかもね

私にはもう何も理解できないから

逃げて逃げて逃げまくったけれど

あの兆候はどんどんと現れだして

もう何も見えなくて見たくなくて


機関銃を持ち出し

大虐殺に黄昏れる


スイッチは踏まれていたんだよね

ドミノはもう半分以上倒れていた

君は割れたビール瓶を振り回して

街を綺麗な赤に染めようとしたね

ただそれを見守っているしかない

私は沼の中へと身を沈めていった

電話線からあの人のパルスが来る

もう全て忘れたかったというのに


ジェノサイドの朝

二度と来ない太陽


再びこの瞬間に戻って来たんだと

闇の中でただただ一人呟いている

全く同じ風景なのにあの頃と違う

あの人も君も霧となり掻き消えた

抱えた思い出はスクラップになり

世界はサイコロの中に入り込んだ

再びこの世界に別れを告げようと

したってもうサヨナラさえ言えず